千歳とアイヌ
かつて千歳川には秋になるとたくさんのサケが遡上し、川⾯も川底もサケで埋め尽くされるほどだったといいます。
縄文の昔から、千歳に住んでいた人々はこのサケを重要な食べ物として暮らしていました。
その暮らしを受け継いだアイヌ⺠族は、サケを「カムイチェㇷ゚=神の魚」として⼤切にし、必要な時に必要な分だけしか獲らないよう、他の動物たちのため、来年のために残しておくよう努め、⾃然のサイクルを守る暮らしを営んできました。
千歳川中流は、かつてサケや⿃などが多く生息する2つの沼があり、狩や漁をするのに適した環境でした。 この地域では、縄文からアイヌ文化期までの遺跡が数多く⾒つかっています。アイヌ文化期の集落跡からは、マレㇰとみられる鉄製品や、サケ科の魚の骨が⾒つかっています。
千歳の⼀帯は、かつてアイヌ語で⼤きな窪地を意味する「シコッ」と呼ばれていました。
1600年代の記録に「志古津」や「シコツ」と記載されていることから、おおむね400年前(江⼾時代初期)にはこの地でアイヌ文化の暮らしが営まれていたと考えられます。
千歳川流域だけを⾒てもアイヌ語の地名は数多く、土地の地形や特徴を伝え合っていたことが伺えます。
千歳でみられる
アイヌ語地名
アイヌ語地名
- 支笏湖
- シ・コッ=⼤きな窪地。千歳川⼀帯の窪地をさす。千歳地⽅の旧名。
- ウサㇰマイ
- オ・サㇰ・オマ・イ=川下に物干し場がある。魚干し場があったと考えられる。
- 蘭越(らんこし)
- ランコウシ(ランコ=カツラの木、ウス=多くある、イ=ところ)が訛ってランコシと呼ばれた。
- 内別(ないべつ)
- ナイ=沢の、ペッ=⼝。支笏湖の伏流水が湧き出る内別川は環境省の名水百選にも指定。
- 祝梅(しゅくばい)
- シュクプ=成長する、パイ=イラクサ。祝梅川流域にイラクサが群生していた。
- 長都(おさつ)
- オ=河⼝(川尻)、サッ=乾く。夏になると沼に注ぐ所が乾燥するため。
アイヌとサケ
アイヌはサケを、神(カムイ)が人間(アイヌ)のために神々の国から送ってくれた魚と考え、「カムイチェㇷ゚=神の魚」と呼びます。
また、シペ(本当の食べ物)とも呼びます。食料としてはもちろん、かつては皮を生活⽤具に加⼯したり、交易品としても利⽤していました。サケはアイヌにとって生活に⽋かすことのできない特別な魚でした。
(日本海ではニシン、十勝川ではチョウザメ、鵡川ではシシャモもカムイチェㇷ゚と呼んだようです。)
アシㇼチェㇷ゚ノミ
アイヌ語で「アシㇼ= 新しい」、「チェㇷ゚=魚」、「ノミ=祈り」を意味します。
アシㇼチェㇷ゚ノミは、秋の最初に川を上ってくるサケ(アシㇼチェㇷ゚)を⼤切に迎え、祭壇(ヌサ)に供えて、神(カムイ)に感謝を伝え、漁の安全や豊漁を祈る儀式です。
国によって河川でサケ・マスを獲ることが禁⽌されて以降、この儀式も途絶えていましたが、千歳ではアイヌ文化の継承のため、また市民への理解を広めるために、平成3年にアシㇼチェㇷ゚ノミを復活させました。以降毎年行われ、儀式の他にも丸木舟でのマレㇰ漁の再現や、アイヌ古式舞踊などが披露されています。
千歳アイヌのサケ漁
アイヌはサケを獲るときも、カムイへの感謝と敬いを忘れず、川を汚す行いを禁じ、サケを根絶やしにするような漁法や独占することを戒めていました。 このようなアイヌの習慣や信仰は、かつて長い間北海道のサケ資源を守ることにつながっていたと考えられます。
サケの気分でマレㇰ漁を体験︕︖
千歳水族館アイヌ文化展⽰では、川の中のサケがマレㇰに狙われている様⼦を展⽰で体験いただけます。
また、実際にマレㇰでサケを獲る瞬間を水中で撮影した動画もご覧いただけます。不思議な形のマレㇰでどういう仕組みでサケが捕獲されるのか、その瞬間を水中で捉えた映像は、恐らく他には無い⼤変貴重な記録です。
サケの気分で川底から覗いてみよう︕
千歳アイヌの
伝統的なサケ料理
伝統的なサケ料理
サケを獲ることをチェㇷ゚コイキ(魚をいじめる)といい、魚をいじめた以上は捨てるところのないよう丁寧に料理をし、残さず食べることが、カムイへの感謝でもあるとされました。
アイヌの伝統的なサケ料理は、身や卵、頭、ヒレ、骨、目、内臓も余すところなく使います。
新鮮なうちに汁ものにしたり、焼いて食べたりする他、日干し・焼き干しや、くん製、凍らせるなど、保存食としても重要でした。
ここでは千歳に伝わる料理をご紹介します。地⽅によって作り⽅や食べ⽅が異なる場合があります。
チェㇷ゚オハウ (チェㇷ゚=魚、オハウ=実の入ったお汁)
魚や野菜などが入った煮込み汁のこと。
千歳で「チェㇷ゚オハウ」といえば、ほとんどがサケの汁物です。
伝統的な作り⽅では、サケの他にフキやタケノコなど⾊々な⼭菜やキノコなどを入れます。
現代では、じゃがいもや⼤根、にんじん、長ネギなどの野菜を入れて、みそ味で作ることが多くなりました。
サケの頭、身、卵、白子、胃袋、骨などを使います。
チタタㇷ゚ (チ=私たちが タタ=〜をきざむ ㇷ゚=もの)
チタタㇷ゚とは、魚や⾁を細かく刻むこと。
サケのチタタㇷ゚は、頭、ヒレ、白子などをひたすら細かくきざんで塩で味をつけます。
新鮮な生サケが⼿に入ったときにだけ作ることができる料理です。
どんな味付け︖
かつては塩と油脂が主な調味料でした。
油脂はクマなどの動物や魚から抽出し、様々な植物を薬味として使いました。
海から遠い千歳では、塩は交易で得る貴重品でしたが、他の地域より早く味噌が入ってきていたため、味噌で味付けしたアイヌ料理が特徴です。
現代では他に醤油なども使います。
展⽰品
イサパキㇰニ (魚たたき棒/サケ送り棒)
実⽤品としてだけでなく、信仰の道具として使われました。
イサパキㇰニで頭をたたくと、サケの魂はこの棒をカムイへの捧げ物として受け取り、神々の国にいるチェㇷ゚コロカムイのもとへ還るとされました。
現在千歳のアイヌに伝わっているイサパキㇰニは主にミズキやヤナギを⽤いた細長い棒で、⼀部皮を剥いで削りかけをつけたものです。
チェㇷ゚ケリ (サケの皮の靴)
アイヌはかつて、サケの皮で靴や服や帽⼦を作っていました。この作品は、当時の作り⽅をできる限り忠実に再現したものです。
縫い⽷にはヤギの腸(本来は腱)、ヒモにはシナの木の皮を使⽤しています。
ケリの中にはシナの木の皮を敷いています。靴下に編んで使⽤する場合もありました。
千歳水族館の展⽰では、このページで紹介している情報に加え、より詳細に千歳のアイヌ文化について知ることができます。
千歳水族館にお越しの際は、ぜひ2階 なるほど︕︖サーモンルームへ足をお運びください。
新たな千歳のアイヌ文化に触れる貴重な展⽰、そして体験をお楽しみください︕
アイヌ文化展⽰
リニューアル
記念講演&文化公演
リニューアル
記念講演&文化公演
この「千歳アイヌのサケ文化」展示リニューアルを記念して、2021年2月27日には千歳アイヌ文化伝承保存会 副会長の平井史郎氏による「先住民族と先住権」、28日は公益社団法⼈北海道アイヌ協会 副理事⻑であり、千歳アイヌ協会 会⻑の中村吉雄 氏による「アイヌ文化と私」をテーマとした記念講演会を開催いたしました。どちらの講演も定員30名を若干上回る参加があり、会場となった2階学習室は満員の状態で、予定時間の50分を超える活発な質疑応答が行われました。
また、講演会の後には両日とも、水族館1階大水槽前にておよそ50分にわたり、アイヌの古式舞踊や歌謡、伝統楽器の演奏などが披露され、途中大水槽のエサやりタイムなどもはさみながら、来館された多くのお客様に楽しんでいただきました。
お問合せ先
サケのふるさと 千歳水族館
〒066-0028 北海道千歳市花園2丁目312
0123-42-3001(受付 9:00~17:00)