サモン君だより_2022年秋の質問より
掲載日:2023.02.20
2022年秋、千歳川にはたくさんのサケが遡上しました。インディアン水車では、これまで過去最大だった1995年の55万匹を超えて、58万7千匹ものサケが捕獲されたのです。
2022年はシーズン当初からサケの遡上が好調でしたが、最盛期の9月後半から10月に入るとますますたくさん見られるようになりました。はじめのうちは歓喜の声を上げていましたが、さすがに川中サケだらけのウジャウジャ振りが続くと、「いつまで続く?」「なぜこんなにたくさん?」と驚きや疑問の声が聞こえてきました。
連日サケが多かった時期には、ほぼ同じような内容の質問をたくさんいただきましたので、今回それを紹介したいと思います。
【質問内容】
・インディアン水車で捕獲しなかったサケは、いつまであそこで泳ぎ続けるのでしょうか?
・サケが魚止の柵(ウライ)でせき止められていますが、自然に遡上させないのは何故でしょうか?
・サケを捕獲する時間は決まっているのでしょうか?
【回答】
千歳川では8月21日から12月10日頃まで、捕魚車(インディアン水車)でサケを捕獲して増殖事業に使います。水車の下流側には魚止の柵(ウライ)のためせき止められて、捕獲期間中サケは柵のため上流へ行くことができませんが、水車のところだけが開いており、そこから入ると生け簀に入る(捕まる)仕組みです。
捕獲後はここから約10キロほど上流の千歳市蘭越にある国立研究開発法人水産研究・教育機構 千歳さけます事業所に運び、採卵・受精させて稚魚まで育てた後、翌春3千万匹の稚魚を放流しています。ただ、増殖事業に使う以外のサケで余剰があれば、水族館の展示用や業者に販売しています。
ここ2年ほど千歳川のサケ遡上数は好調で30万尾を超えていますが、今年(2022年)はそれよりも上回るペースとなっています。毎日毎日捕獲作業を行っても、それ以上のサケが下からどんどんと上がってくるため、川中にサケがあふれかえるようになりました。昨年も同様なことはありましたが、今年の方が数多く続いていると思います。
サケ捕獲終了(例年12月10日頃)はウライや水車は速やかに撤去され、その後遡上したサケは川で自然産卵します。自然産卵場所は千歳さけます事業所周辺が多いですが、12月以降当館の水中観察窓前でも行われております。
ところで、サケは自分が生まれた頃に川へ遡上し、産卵するといわれおり、秋(9~11月頃)に見られるサケはふ化場で受精・ふ化する「ふ化場魚」、12月中旬以降のサケは自然産卵で生まれた「野生魚」となります。
特に今年は水車前で足止めされたサケが多くなり、ある意味我慢できなくなったサケは水族館より下流の千歳川で産卵を始め、反対に下流でも野生本来の行動が見られるようになりました。それらが無事ふ化していけば、数年後は秋の野生魚が増えてくる可能性もあります。
以前、調査研究で捕獲終了間近の12月頃から水車で捕獲後のサケを遡上させていることはありましたが、遡上最盛期(9月~10月)となると、自然豊かなアメリカやカナダ、ロシアでは問題ないでしょうが、川も短く産卵場所のすぐ近くに市街地が迫る日本では、野生動物(冬眠前のヒグマ、キタキツネ)が集まる可能性、産卵後のサケは死亡して森林の栄養や昆虫など小動物の餌になる一方、市街地に流されると匂いの発生、見た目の問題等起こる可能性があるので、簡単にはできないのではないかと思います。
これまで日本のサケ資源は増殖事業に頼ってきましたが、野生魚は環境変化に対して適応性が高いなどで野生魚の活用も検討され始めており、現在増殖事業の在り方が変わっていく過渡期だと思います。
今回の状況をどう分析していくのか、秋に自然産卵しているのが続いて秋の野生魚が増えるのか、今後の行方が気になるところです。
水中観察窓から見られたサケ仔魚(2月)。秋の自然産卵により生まれたと思われます。
【学芸員 荒金利佳】